第3回南三陸いのちめぐるまち学会大会の様子

2024年11月8〜10日に開催いたしました、第3回南三陸いのちめぐるまち学会大会の様子をご報告いたします。
海洋ジャーナリストの瀬戸内千代様に取材頂き、記事にしていただきました。ぜひご覧ください。

The eve of festival

前夜祭

第3回大会では、前回に続いて南三陸まなびの里・いりやどで前夜祭が開催されました。前半は、南三陸町のネイチャーポジティブな未来への道筋を検討するワークショップでした。後半は、地域の方々や近隣に前泊する大会参加者たちが集まり、多拠点生活者を囲むトークイベントから始まる自由な交流会となりました。

前夜祭 第1部「ネイチャーポジティブな地域のシナリオづくりWS」

午後2時から約3時間、事前に登録した36名の町内外の方々と、当大会の共催者であるS-21(後述)の研究者たちが、自然と人間の関わりについて語り合いました。人数限定で参加を逃した方もいるため、少し詳しくご報告します。

ファシリテーターを務めたのは、藤 修さん(公益財団法人 地球環境戦略研究機関 生物多様性と森林領域 上席研究員)です。藤さんが代表を務める2022~2027年度の環境省の研究プロジェクト「生物多様性と社会経済的要因の統合評価モデルの構築と社会適用に関する研究」は、プロジェクトナンバーから「S-21」とよばれています。S-21では、5つある研究テーマの中で、3つの地域(大阪市、佐渡市、南三陸町)の将来シナリオづくりを進めています。

今回のワークショップは、ネイチャーポジティブな南三陸町の将来シナリオを描くために、今ある課題を洗い出し、その対応策のアイデアを出し合うことを目的に開催されました。ネイチャーポジティブ(自然再興)とは、生物多様性の保全を強化して損失を食い止めるだけでなくプラスの状態にしていこうという国際目標です。

各グループ(山1、里2、海2の計5グループ)に地元の方が入り、町内外の参加者が話し合いながら、ふせんを使って、南三陸町の課題とその背後にある要因を書き出しました。そして、それらをまとめ直しながら、特に重要と考えられる課題にシールを貼りました。来場していたS‐21の研究者たちも少しずつ話の輪に加わり、シールが貼られた課題を2050年までに解決するための対策を書き出し、最後は全体に向けて、主に若手の参加者が発表しました。

「立体でみる南三陸町の地図」

ワークショップの会場では、五味馨さん(国立研究開発法人 国立環境研究所福島地域協働研究拠点)が、手元の立体地図に地理データをプロジェクターで投影する「南三陸町3Dプロジェクションマッピング」を実演し、休憩時間に人だかりができていました。複数の模型をつくるにはコストがかかりますが、これは真っ白な南三陸町の立体地図一つ(高低差を少し強調し、3Dプリンタで射出成形)に、高台移転で低地の人口が減った様子など、さまざまなデータを次々と投影できます。明瞭なカラー映像なので、実際に塗り分けられた模型のようでした。研究者と参加者の間で、ほかにどのようなデータを投影したいか、意見交換が始まっていました。

前夜祭 第2部「ドリンク片手に楽しもう!多拠点・マルチワーカー×地域の視点〜地域に関わる人再発見〜」


前夜祭後半は、「自治体による移住施策も人口減少社会では限界がある、もう少し”軽やかで緩やかなつながり”が重要では」という問題意識から出発した企画。2拠点あるいは多拠点生活の中で南三陸町に暮らしているゲストが代わる代わるマイクを持ち、菅原裕輝さん(大阪大学大学院人文研究科 特任助教)と対談……というより、アルコールも入り盛り上がる会場と交流しながら、事前アンケートに沿って、自身のライフスタイルや南三陸町への想いを語りました。

南三陸いのちめぐるまち学会

大会当日

地元の小中高生を含む201人が参加した2024年の大会は、南三陸町スポーツ交流村(ベイサイドアリーナ)で盛大に開催されました。受付係や会場内のマイク運び役として活躍したのは、南三陸高校の情報ビジネス科の生徒さんたちです。夜市(後述)とのコラボもあり、前回以上に南三陸町の「顔」が見える大会でした。

◆対談:本音で語るネイチャーポジティブ(科学者×企業×地域)

開会宣言と大会説明に続き、科学者として近藤倫生さん(東北大学・WPI-変動海洋エコシステム高等研究所教授)、企業人として長香さん(日本郵船株式会社ESG経営グループ サステナビリティイニシアティブチーム チーム長)、地域人として南三陸町で林業を営む佐藤太一さん(学会長、理学博士、株式会社佐久専務取締役、一般社団法人 南三陸町観光協会 会長)が登壇しました。進行は事務局の太さんです。

対談タイトルにある「ネイチャーポジティブ」は、「今どんどん悪化している自然の状況を2030年までに回復基調に乗せよう」という国際目標ですが、達成は簡単ではありません。自然を良くするためには、現状を知って、目指す姿を皆で考えて、実際にアクションを起こす必要があり、その時にはお金も必要で、「科学者だけでも、ビジネスだけでも、行政だけでもできない」からです。そこで近藤さんたちが2024年4月に立ち上げたのが、「ネイチャーポジティブ発展社会実現拠点」です。そして、南三陸町はその研究プロジェクトの中で重要なフィールドだと言います。「南三陸町でできなければどこでできるんだろう、というぐらい大事な場所なので、ぜひご協力いただけたら」と近藤さんが呼び掛けて、会場を引き込む形で対談がスタートしました。

コーヒータイム

大会会場では、今年も「就労支援事業所かなみのもり」さんが温かいコーヒーをサーブしてくださいました。使い捨てコップ削減のため、持参したマイボトルに注いでもらう人、その場で特製タンブラーを購入する人もいました。

◆講演:発掘調査成果からみた南三陸町の昔のくらし~新井田館跡と大久保貝塚の発掘調査を中心として~

南三陸町には、88カ所の遺跡があります。遺跡は国民共有の財産であるため、開発に伴う発掘の際には調査を実施することが法律で定められています。また、調査後に壊してしまう場合には、報告を本にまとめて残すことが必要です。

復興工事や高台移転が続いた南三陸町では、東日本大震災後だけで37遺跡、63件の発掘調査が行われています。そこで出土した埋蔵文化財などについて、調査に携わった生田和宏さん(宮城県教育庁文化財課 保存活用班 技術主幹、班長)が、写真を示しながら解説しました
※権利の都合で写真を転載できないため、文化財はYouTube「みやぎ文化財チャンネル」でご覧ください。
動画例)大久保貝塚の出土品

生田さんは、南三陸町の代表的な発掘現場として、室町時代の山城「新井田館(にいだたて)」跡と大久保貝塚の調査結果を紹介しました。

ランチタイム

初めてアリーナという大舞台で開催された今回は、アリーナ前の広場にハンバーガー、ラーメン、どんぶり、おむすび、飲み物、クレープなどを提供する5台のキッチンカーが並びました。

◆ポスターセッション

今年のポスターセッションは、1分ずつ自身の発表をPRする「ライトニング・トーク」の後、会場を移動して始まりました。昨年の倍近い3時間(2交代制)が確保され、全体討論での即時アンケートでは、非常に多くの人が「最も印象に残ったプログラム」に選びました。計41枚ものポスターが出展しましたが、ここでは、児童・生徒さんたちの発表について報告します。

◆全体討論

ポスターセッションが終わり、大会全体の振り返りの時間となりました。全員がマイクを持つことはかなわない人数なので、前半は、司会の太さんの質問に沿って参加者がスマホから投稿して、その言葉を舞台上のスクリーンでリアルタイムで共有しながら進行しました。

全体を通して印象的だったキーワードには、タッチポイント、ネイチャーポジティブ、羊飼いなどが挙がりました。聞いてみたいことには、「ワカメの面白みは?」「かわいい干潟の生き物は?」などが挙がり、そのテーマで語れる南三陸町の関係者が次々と発言しました。

締めは、恒例の、中静透さん(国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所 所長)による総評です。中静さんは、「一言で言うと素晴らしい」と述べ、その理由として、参加人数、多様なポスター、中学生の参加、文理にまたがる専門家による先端研究の紹介、地元の実践者や中高生との情報交換、などを挙げ、「これから先も、もっともっと続けていただきたい」と激励しました。

◆大交流会とエクスカーション

大交流会

大交流会と銘打った打ち上げは、会場を「道の駅さんさん南三陸」の南三陸ポータルセンター周辺に移して、地域で初開催された「しづがわ夜市」に合流する形で開催されました。
道の駅さんさん南三陸「しづがわ夜市」初開催! 

立ち並ぶブースには、前夜祭第2部に登壇した「自然卵のクレープ 南三陸店」や「南三陸ワイナリー」も出店していました。肌寒い11月の屋外会場でしたが、室内やドーム状の温かい休憩所も、木炭の火種で温まることができる浜焼き(BBQ)スペースもあり、さんさん商店街でも数店舗が特別に夜間営業をしてくれていて安心でした。

学会長がDJ ISLAND(アイランド)に変身すると、ノリノリで踊り出す人々の影が揺れて、夜空の下、まさに大会テーマ「おどる交流軸・はねる時間軸」にぴったりの情景が現れました。

エクスカーション

今年の大会も「里海里山ウィークス」期間中に開催されたため、翌日(日曜日)にも、お楽しみが用意されていました。「学会長と行く!パワースポット荒島探検(佐久)」「漁船に乗って行こう! 海中熟成ワイン体験イベント(南三陸ワイナリー)」「杉枝を利活用 スプーン・フォークつくり体験(南三陸YES工房)」「循環型の取組みの核となる南三陸BIO見学(アミタサーキュラー)」「SEED TO TABLE~ワカメの種苗から料理までを解剖~メメメ(SEASON cafe&shop)」「いりやど里山サウナ体験(南三陸まなびの里 いりやど)」など各種イベントに参加者が足を運び、地域内外の交流が続きました
※里海里山WEEKs2024「イベント情報」

(文責:海洋ジャーナリスト・瀬戸内千代)